基本的に逆転裁判の初期は全部面白い。逆転裁判シリーズは1が一番面白く、2から3になるに従っておもしろくなくなる。そして4でネタが切れて無事死亡している。
後で付け足された パート5「蘇る逆転」は評判が悪い。ムダに長く、証拠品も人物も増え、シナリオの矛盾点も多い。プレイしていて楽しくなくなっている。
では 何が違うのか。
1話から4話までは 証拠品によって証言の矛盾を突くというスタイルだった。犯人が「被害者の部屋には入ってない!」と証言すれば、入った人にしか分からないであろう事実を突きつける。
いわゆる弁証法により進んでいった。
これが綺麗に決まっていたのがパート3までであった。だからパート3までは攻略サイトなしで進めることができた。パート4から怪しくなり始めたが 許容範囲ではあった。
ところがパート5「蘇る逆転」では矛盾を突くと言うよりは、シナリオ作家の用意した 先に進めるための選択肢がどれなのかを 予想して当てるという風にシフトしてしまった。
なかには 「証拠を出したほうがいいでしょうか、それとも止めときましょうか」的な当てずっぽうで当てないと進めない部分がでてくる。
それまで論理的な思考で進めていけたものが、どの手がかりが関連しているのかすら分からない選択肢に変わっていく。これが駄作の1つの要因である。
あとは複数の事件が重なっているため、話がつかみづらいというのもある。
16年も前の作品なので 今更ネタバレも何も無いと思うが時系列順に なにが起こったのかプロットしていくとこうなる。
2年前の事件
茜は姉と夕飯を食べるために姉(ともえ)の務める警察署のオフィスに向かう。
茜の居るオフィスへ、取調べ中に脱走した殺人鬼の青影丈が侵入。
そこへ 検事のザイモン弟が突撃してくる。
青影は茜を人質にした。ザイモン弟は青影に飛びかかった。ザイモン弟はトロフィー付属の折れた剣で青影の背中を指した。
茜はザイモン弟を突き飛ばした。
ザイモン弟は気絶。茜もなぜか気絶。
ガントがやってくる。気絶しているザイモン弟を持ち上げて 置物の剣に押し付けて殺害
ガント 弟の血でツボに茜の文字を書いた
ともえが部屋に入ってきた ともえ ザイモン弟が死んだのは茜の仕業だと誤認する
ともえ ジャンプナイフでザイモン弟を刺して 破片を埋める
ガント ザイモン弟のベストの一部を切り取る
ガント ツボを割って 一部を隠す
2年後
ザイモン兄 タダシキのIDを盗む
16:20 タダシキ、ガントと保管庫に入る。
タダシキ ロッカーをあけてガントに再捜査を提案。
ガント タダシキを殺害 遺体をどこかに隠す
16:40 御剣 保管庫に入る。
ガント タダシキの遺体を 御剣の車に乗せる
17:13 御剣検察に移動。
ザイモン兄、ハラバイに見つかる
17:14 ザイモン兄、ハラバイ 保管庫に入る。
ハラバイ ザイモン兄と戦い負傷。
ともえ 検察に移動
ともえ タダシキの死体からジャンプナイフを抜く
ともえ 御剣のナイフでタダシキを刺す。同じ箇所を。
ともえ ジャンプナイフをスカーフにくるんで排気口に隠す
ともえ 排気口のナイフを隠すように茜に電話している途中で通信を切る
おキョウ ともえの姿を目撃する
蘇る逆転のシナリオでの疑問点
シナリオの出来はイマイチだが、最も良くないのは キャラクター形成に失敗している点である。その中心が 準主役のともえである。
ともえはバカキャラ、もしくは狩魔冥のようなドジっ子にした方が、このパート5は すんなり事が進んだと思っている。
ともえは なぜ「茜」という血文字を ザイモン弟 が書いたと思ったのか
血文字の成分はザイモン弟のものである。ザイモン弟は 背中にヤリが突き刺さったまま死んだ。 ともえは ダイイングメッセージはザイモンが書いたと思ったらしいが、
背中にヤリが刺さった人間が、ツボを持ち「茜」と書けるものだろうか。ふつうに考えて無理がある。気が動転していたとはいえ、証拠が無いまま ザイモン弟が書き手であると判断している点から 主席検事の知能があるとは思いにくい。
ともえが踏み込んだ時の状況もおかしい
ともえが入った部屋には死んだ殺人鬼、気絶した妹、剣に突き刺さっているザイモン弟、そしてガントがいた。
仮に 妹が突き飛ばしてザイモン弟が死んだとしても、過失致死だろうし、茜は未成年で実刑判決はくらわない。
そして、ガントがザイモンを殺した可能性が残っている。なぜともえは妹の仕業だと思い、証拠品を消し、隠蔽したのだろう。既に現場が捏造された後ではないかと疑わないのも変だ。
ともえはなぜ ガントの持っている証拠品を捨てなかったのか
茜と事件を結びつける手がかりは、指紋のついた布と血文字の茜。茜がザイモン弟を突き飛ばした証拠を隠蔽したいのであれば、局長室と証拠保管庫に忍び込んで 焼いて捨てれば良かったのではないか?
この事件はともえが相当なバカでないと成立しない
この事件はともえが ガントの言うことを100%信じて疑わない場合のみに成立する。しかし それでは そもそも主席検事にはなれない。そのため プレイヤーは理解に苦しむことになる。
「なんでこんなのが主席検事なんだ モラルの欠片もないし」と。
ともえは若くして主席検事になった 御剣以上の頭脳という事になる。それならばガントが平気で捏造する奴だと気づいていたはずだし、妹が犯人にされているかもしれないと疑うのが自然だ。
ともえが 昔から ガントの言いなりのコマとして地位を掴んだというなら納得ができる、しかしその場合 有能な検事というのはウソになる。
血文字を見て「妹が殺った」といきなり判断しているので「妹を全く信じてない」か「状況判断」がまるで出来ない系である。いずれにせよ ともえのキャラクターは何度も破綻する
ザイモン弟は殺人鬼に襲いかかって殺せるほど強いのに、なんで女子高生が突き飛ばしたくらいで死ぬと思うのだろう。茜がムッキムキだったら分かるが。
細かい不備はいくらもある。
ツボの血文字にしても、ザイモン弟が書いたものかどうか 捜査が行われていないのも変だし
なぜ2人も死んだ事件で オフィスに警察の捜査員がなだれ込んでこなかった理由も良く分からない。
茜の気絶のタイミングや 突然の雷雨や停電を見ても、不自然と言われてもしょうが無い。2月で停電が発生するほどの雷雨はなかなか無い。
逆転裁判1の中でも 蘇る逆転のシナリオはムダに長くしたせいで ほころびが多い。ハラバイやおキョウなど 役割の割に目立ちすぎているキャラクターも気になる。
ビデオ録画を使った証拠品の提示や 指紋検出などのギミックは新しいが、逆転裁判1の中でも、蘇る逆転だけは 突出した息切れ感が伺えるのである。