スペインで「サルのキリスト」や「太マユ天使像」みたいな、とんでもない修復(通称トンデモ修復)は定期的にニュースになりますが、あれはスペインの国民性というよりも、法律の抜け穴、予算不足、そして「善意の暴走」が絡み合った、かなり根深い構造的な問題が原因だったりします。
主な理由は以下の3つに集約されます。
1. 「誰でも修復していい」という法律の緩さ
最大の原因は、「資格を持たない素人が文化財を修復することを禁止する法規制」が長年不十分なこと。 スペインの保存修復専門家協会(ACRE)もずっと怒っているが、医師や弁護士などと違って「プロの資格を持たない者が手を出してはならない」という縛りが、地方教会や個人所有の美術品に対しては非常に甘いわけです。そのため絵画教室の先生や、家具の修理業者などが悪気なく請け負ってしまうケースが後を絶ちません。
2. 地方の深刻な予算・人手不足
スペインは世界遺産や歴史的建造物が無数にある「文化財大国」です。しかし、それに対して国や地方自治体が回せる予算には限界があります。 特に国立美術館ではない、地方の小さな村の教会にあるような美術品は、国からの支援が届かず、修復が後回しにされてボロボロのまま放置されがちです。
地方で起きた三大「ネタ修復」事件は すべてスペインの絵に描いたような地方の町で発生しています。
| 事件の通称 | 起きた場所 | 元の美術品 |
サルのキリスト
| ボルハ (人口約5,000人) | 19世紀の壁画 『エッチェ・ホモ』 |
太マユの聖ジョージ
| エステーリャ (ナバラ州の人口 約14000) | 16世紀の木彫りの聖ジョージ像 |
ポテトヘッドの天使
| パレンシア (内陸部の過疎が進む地方都市) | 20世紀初頭のビル外壁の彫刻 |
3. 「善意の暴走」とコミュニティの優しさ
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予算がない中、ボロボロになっていく地元のキリストの壁画を見かねた近所の住民が、「私がボランティアで綺麗にしてあげる!」と立ち上がってしまいます。 さらに周りの人たちも「いつも教会をお世話してくれてるし、善意だから……」と止めるに止められず、気づいた時には取り返しのつかない状態になってしまっているのです。
ちなみに サルのキリストはスペインのアラゴン州 人口5000人ほどのボルハという町のミセリコルディア聖堂 、 エリアス・ガルシア・マルティネス作のフレスコ画でした。2012年に修復したのは地元民のセシリア・ヒメネスばあちゃん(当時80代)が湿気でボロボロになって剥がれ落ちそうだったキリストの壁画を見かねて、「良かれと思って」筆を入れたのが始まりでした
修復失敗で街が儲かってしまった
もう一つ、トンデモ修復問題がなかなか根絶されない皮肉な理由があります。それが「失敗したほうが村が儲かる」という謎現象です。
「サルのキリスト」の件以降、あの田舎町ボルハには世界中から数十万人もの観光客が殺到し、数億円規模の観光収入をもたらしました。Tシャツやマグカップなどのグッズ販売や入場料で町が潤ってしまったため、財政難だった地方の町が経済復興を遂げてしまうというミラクルがおきました。
そのため 他の地方でも「最悪、失敗して炎上したほうが ワンチャン観光客が来るんじゃね?」という歪んだ動機が少なからず働いてしまっている背景があります。
実際「元の地味な壁画に戻したら観光客が来なくなる」と懸念して、このサル顔のキリスト壁画はそのままになっています。(guardian)
最近はさすがに法規制を厳しくする動きが強まっていますが、歴史が長すぎて「そこら中に歴史的なお宝がある環境」だからこそ起きる、特有のトラブルと言えます。
