本に必要なのは作者の情熱かも知れないと天啓が降りた本。
フランスの教授に エマニュエル・トッドという方がおります。いわゆる天才です。この人は「今の世の中はこうなってるから、未来は多分こうなる」という予言がほぼ的中するという預言者的な所があるのですが「すごいのに全然偉そうにしてない」というゴッド的な存在です。
ところがトッド先生にも弱点があって、著作の内容が難しくてよく分からんわけです。
そんな時に差し込んだ 蜘蛛の糸。それが鹿島先生のこの本なわけです。いやー、助かる。これを読めばトッド先生がどんな事を言っとるのかというのがよくわかります。
面白かった所
なんでトランプ政権が誕生したのか
詳しくは本書に譲りますが、個人的にピンと来たのは なぜトランプ政権が誕生したのかという所です。
選挙の時は マスコミは「なんだかんだヒラリー当確だろう」と言っていましたが、トッドさんはトランプの当選を予言していました。面白いのはその根拠です。
実はアメリカでは1999年以降 白人の中年の死亡率が上がっています。
その頃からアメリカでも労働環境は悪化し、労働者の収入は上がっていないのですね。
そんでアメリカは 自由貿易(そうだ安い国で作ろうの発想)と移民の増加が白人労働者を追い詰めたわけです。
その結果 希望を失った中年男性の アル中・自殺が増えて、さらに医療保険制度がゴミなこともあって 死亡率が上がっている訳です。
そこに現れたのがD.トランプです。「壁を作れ!国内に仕事をとりもどせ!」
不満を解消する発言を続けてきたわけです。民衆が選ぶのも当然です。
まぁここまでは分かりますが、問題は なんで白人労働者が移民と同じような労働環境をするまでに 落ちぶれてしまったのか ここが大問題だったりします。
実はアングロサクソン系の白人家庭で お金のない所は、子供の時は もちろん面倒を見るけど 子供が成長して ある程度大人になったら ビタ一文ださずに「お金ないし あとは自分で頑張れよ」と 放り出すわけです。
子供はあとは自分の力で切り開くだけです。男の子は一生懸命働いて 新しく家庭を作るしかありません。親との絆とかはそんなに深くなくて、じいちゃんと住まない核家族ばっかり多いわけです。
アメリカンは子供が ごりごりのピアスや入れ墨するのも自由ですが、その代償として個人で独立して頑張れというのがお国柄で、関係もドライです。じいちゃんになったらグラン・トリノみたいな生活です。
そんなわけで ハイスクールを出たら 必死で働くわけですが、低学歴で仕事も限られているので低収入にしかなりません。本当は移民の人達に出来ないような 仕事をさせるべく教育が必要なのですが、その余裕がないままです。
つまり トランプ政権が生まれたということは そういう人たちが 現状いっぱいいるという事です。
この後 じゃあEUは仲良くやっていけるのか、イギリスは結局 離脱するのか、ロシアはどうなのかという問題に切り込んで行きますが、読むたびに「ほー」とか「はー」とか言いながら読みすすめることが出来て楽しいです。
世界がどんな風に動いているのか そんな余裕が生まれる感じです。
これに関連しては、チョムスキー先生の 誰が世界を支配しているのかという本も面白かったですが、これは副作用も強烈で、 こうした社会の格差・分断はわざと放置されているんだなー という事が見える点で こっちのインパクトも大きいです。
どちらも価値が高い本だと思いました。どちらも今年のマイベストブック賞です。