震える映画 「コレクティブ」(2021)

薬品製造メーカー・病院・政治家がグルになって地獄みたいな医療現場になってしまったルーマニアの映画、まさかの「実話に基づいたお話」

ネタバレ注意 あらすじ

「コレクティブ」はブカレストにあるナイトクラブの名前。

2015年10月30日の寒い日に5人組のメタルバンド Goodbye to Gravityがライブをやっていました。ユニバーサルミュージックと契約して新アルバムを発表する まさにこれからという時期のライブでした。

収容80人のライブハウスには 300人が集まってギュウギュウ。そのステージでバンドが花火を使った所、その火が壁に燃え移って、天井の防音材に着火。

Collective – Official Trailer

普通のライブハウスは不燃性のグラスファイバーを使うが、ここのライブハウスはケチって燃えるポリウレタンフォームを使っていた。(肌着にも使われてる素材)

そのため 火は一瞬で燃え移って有毒ガスが発生。悲惨なことにクラブには非常口がなかった。ガスを吸って倒れた人はそのまま死んでしまう。

その日に27人が亡くなり、180人が負傷。バンドは全員が病院に搬送されたが、ボーカル以外は全員死亡。ボーカルの彼女も死亡してしまう。

180人のうち 37人はひどいヤケドを負って病院に運ばれた。ちなみにクラブのオーナーたち3人は過失殺人、過失傷害で逮捕された。 

しかし物語はここから。ヤケドで運ばれた 国内の患者たちが 次々と入院中に死亡した事が分かった。一方で 外国の病院(イスラエル、オランダ、ベルギー….)に運ばれた患者は死ななかった。不思議に思って調べてみると、国内の患者たちは病院内の感染症で死んだことが分かってきた。

ガゼッタというスポーツ日刊紙の記者トロンタンは 死亡の原因を調べ始める。製薬会社から病院に提供されている消毒液を調べたら 通常の10倍に薄められていたことが分かる。患者は消毒が出来ずに死んでいた。

抗菌剤を認可している 厚労省の大臣に質問すると、トロンタンの質問をはぐらかそうとする。また、うんざりするほど無表情な政府の閣僚たちが次々と登場する。しまいには スポーツ紙の方が間違っているといい出すものまで出てくる。

トロンタンはさらに取材を続けると 国内200以上の病院で この抗菌剤が使われていることが分かった。追求を受けて 厚労省の大臣は辞任に追い込まれた。

トロンタンの追求は 政府の発表を信じる勢力からは煙たがられた。「あなたが書くことはどれも恐ろしい事ばかりだ。一体何がしたいんだ?」とワイドショーの司会者は言った。

トロンタンは”ジャーナリストである私も含めて、私たちは 政治家の発表を盲目的に信用してきた。しかし 報道が政府に屈して黙るならば、当局はこれからも市民を虐待し続けるだろう”と答えた

なぜこんな抗菌剤が認可されているのか?

たどっていくと 抗菌剤を製造しているメーカーはペクシーファーマという製薬会社だった。 衝撃的な事に、ここが抗菌剤の原料を購入している会社は ヘクシーファーマの社長と同じだった。

ダン・コンドレア(Dan Condrea)という名の社長は1つの会社を経由させて、抗菌剤の原料を相場の7倍で売っていた。ヘクシーはその原料を10倍に薄めて配布していた。今回の事件はルーマニアが補助金を出したが、その金の一部が吸い上げられていた。

ヘクシーは薄めた原料で利益を上げて、その利益を厚生省関連の政治家と病院に賄賂として渡していた。追求を受けたダン社長は議会で証言すると言った。

しかし その直後にダンは交通事故で死亡する。車は木にぶつかり、ダンの遺体は 服と持っていた書類で身元を確認されるほどのひどい状態になる。

厚生大臣が辞めたことで 新しいブラド大臣(Vlad Voiculescu)に交代になる。今度は見た目こそ冴えないが、これまでの利権に浸かっていない、しがらみの無いところからやってくる。そして淡々と厚労省と病院の不祥事を追求していく。

この抗菌剤は厚生大臣が変わる前から使われていて、多くの患者が死んでいた。ところが病院も厚労省も 原因を明かさずに もみ消していた。病院の理事長が逮捕されたりするが、それは氷山の一角で、厚労省内の腐敗はひどく、大臣が1人 頑張ってもどうにもならないほど 腐敗が広がっていた事が分かっていく。

なんでこんな事態に?

ルーマニアの監督たちは、不正や腐敗をいくつか取り上げてきて 今回の作品はその流れの1つと言ってもいいかもしれません。

『The Death Of Mr Lazarescu』(2005)は、病院をたらい回しにされる老人の話。

『Police, Adjective』(2009年)は、これ以上捜査すると 友だちが逮捕されるかもしれないと判断した警官が途中で麻薬捜査をやめてしまう話。

『エリザのために』(2016)は、娘の試験結果を修正するよう動く医師の話。

しかし今回のコレクティブは規模が大きく、最も強烈。

元々ルーマニアは独裁者チャウシェスクが「自分の一族は政府の要職につけるけど、国民は困窮しとけよ」というスタイルで1989年に銃殺されて ようやく民主化されたばかりで、EUの中で最も貧乏なんですね。

で、何で貧乏かと言うと原因は汚職の蔓延です。チャウシェスクと一緒につるんでいた元共産党の幹部がそのまま大統領になったりしているので、利権構造がそのまま残っている。

すでに利権がある所に 新しい会社を興そうとしても、役人が邪魔したりして潰すわけです。賄賂が貰えなくなりますので。つまり 政府の認可が降りないくて 産業ができない訳です。

2019年には与党党首が汚職で逮捕されたり、首相も1年でコロコロ変わったりで、政治が全く安定していないんですね。

この映画でも厚生省はワイロを受け取っていたので「適切なケアは出来ている」とか 嘘もしくは 中身のない説明に終止。

報道も政治家との間の利害が一致して一体化。政治家の答弁をそのまま流すだけになり、 政治家の言い分が本当かどうかを確かめなくなった。(あれ これルーマニアの話?)

病院の管理者は医療に関する専門的な知識がない人が運営し、製剤メーカーと団結して 効かない薬剤を使用。ワイロを受け取った誰もが抗菌剤の真実を隠していました。

何も知らない、自分で調べない市民は ひたすら税を取られて、効かない抗菌剤(実際は汚水)を使われて死亡。

異常事態に気づいて知らせたのは 大手マスメディアやニュースではなく タブロイド紙の記者。真実を語ったのは病院の理事長ではなく、内部告発者。

たまにこういうシビれるのがあるから、映画っていいですね。

-これは いつでも世界中に起こる事、それが今 私たちの身に起こっている-

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