【感想】 史上最強の哲学入門 ツイッター疲れにはデリダが効く。

史上最強の哲学入門 (河出文庫)

あらゆる良書を読むことは、過去の最良の人物たちと会話することだ ―ルネ・デカルト


哲学は何の役に立つんだろう?

”大昔の哲学者は万物の根源は水と思っていたのです。”というのを 現代の私が知ったからといって、それが一体 何の役に立つんだろうかと長年 思っておりましたが、哲学で大事なのはそこではありませんでした。

大事なのは「水だ」という結論ではなく、なぜ「水」に至ったのかという思考の過程だったのです。時代が変わっても 主張のすすめ方は現代とあんまり変わっておらず役に立ちます。

なんで古くさい哲学が今も必要とされているのだろう

ものごとの考え方や 説得のしかたは時代が進んでも変わらないので、哲学本には何百年も使える栄養分が含まれています。

しかし、そうは言っても哲学本は読みにくいし分かりにくい。難しいことを難しいまんま伝えるマゾい本があふれているわけです。

そんな中で 天国から降ろされたクモの糸が 史上最強の哲学入門 だったりします。

この本はどこが面白いのか?

面白いのは哲学の偉い人が30人も論戦バトルをする選手として描かれている所です。知のプロレスみたいなもので、それぞれの主張を持って戦います。

30人の選手が「われこそが真理を知る者!」と言わんばかりに、考え方をぶつけあって、誰が一番の知のチャンピオンなのかバトルする流れがたまらず面白い。ただ正直 厚いので読むのに3日くらいかかりました。


デリダが面白い

30人ぶんの考えをここで紹介するわけにはいかないので、面白かった考え方だけ紹介するとデリダという人の考えが面白いです。

ジャック・デリダ( 1930- 2004)、フランスの哲学者。

デリダの考えを一言で言うと、みんな違ってみんないい

例えば庵野監督のエヴァンゲリオンを見たとしましょう。見終わると それぞれ感想が出てきます。家に帰って おもむろに5ちゃんねるを眺めると、オタクたちが論争をしてたりします。

A「あのシーンで監督の言いたいことはこういうことだな」
B「は?全然違うんですけどー 絶対こうなんですけどー」

こういう光景を見かけると思います。

でも監督が何を伝えたかったかなんて 監督に聞かない限りよく分かりません。永遠に決着はつかないでしょう。

はいそこで、デリダはまぁまぁと審判として登場します。

Aさんの感じたことも Bさんが感じたことも本当なんだし、それでいいじゃないかと。作った人の意図は分からないのだからひとまず置いておいて、読み手がどう思ったのかを大事にすればいいじゃないですかと提案する訳です。

でもなんで みんな違ってみんないいの?

でもそれって相手が言ったことを、間違って受け取ってもオッケーって事だから、あんまり良くなかったりします。でもデリダ先生は続けるわけです。

そもそも言葉は ちゃんとキャッチボールされることのほうが少ないんじゃないかと。

例えば、夕暮れ時の公園で Aさんが寂しげに「ああ腹減ったな」と言った時に、 Aさんが何を思ったのかはAさんにしか分からない。本当に腹が減っただけなのか、なにか別のことを思ったのか。

聞き手のBさんには Aさんの本当の気持ちなんて分からないので、Bさんにとって「私はこう思った」という自分なりの解釈を出すしかありません。Aさんの考えは分からない以上、それしか出来ないじゃないかという考え方なわけです。

つまり、デリダ先生は Aさんの気持ちはAさんにしか分からない、そんな永遠に分からない真理を求めて論争するのは不毛だよ。それよりも私はこう思うという、あなただけの解釈が真理ってことでいいじゃないと言うわけです。

ツイッター疲れにはデリダが効く。

それではタイムマシンで未来に行って 実際にデリダの考え方を使ってみましょう。

例えば、ツイッターで自分は 「エヴァンゲリオンを見てこう感じた」という感想をあげたとします。

その後で 変な人に絡まれて「あなたの意見はおかしい」と言われたとしてもひるむ事はありません。「あなたにとってはおかしくても、私が採用している真理はこれです。」で勝利です。

この考え方を採用すると 人の意見を聞かない意固地な人になりそうですが、意外に逆で、私も私だけの意見があるように、きっと 人にも違った意見があるのだろうと思えるようになるので、実は寛容になれたりします。

他人がいいねって言ってくれるかもしれないし、意見が別れて嫌われるかもしれない。そんなリスクを受けつつ、 それでもいいじゃない。誰でもない私の意見なんだから。という考え方はアドラーの主張(嫌われる勇気の第三章)にも通じる考え方です。

哲学者の考え方は極端なので、こうした考え方に居心地が悪い感じを持たれるかもしれません。

ただ異論もあるけれど、こんな感じで物事をどう捉えていくのかという枠組みを作ってくれる上で非常に有益ではないでしょうか。

この後も 討論バトルが続いていくわけですが、あまりネタバレすると怒られそうなので すみません、良書なので気になる方は是非 本編を御覧ください。それではまた。


スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする