【感想】★4『2030 半導体の地政学』 台湾を取られたらマズい理由が分かる

★4 日経新聞編集委員の太田泰彦さんの作品。

2030 半導体の地政学 戦略物資を支配するのは誰か (日本経済新聞出版)

2030 半導体の地政学 戦略物資を支配するのは誰か (日本経済新聞出版)

中国にTSMCは渡せない

いやー、面白かった。半導体製造を巡ってアメリカと中国のバトルはバチバチに始まっている事が見えてきた。

概要を説明すると、やっぱり最大の争点は台湾のTSMCである。ここが半導体チップ製造で先頭を突っ走っていて ここを中国に取られたら 日・欧・米の産業に大ダメージが及ぶリスクは避けられない。

トランプが「台湾に手出しすんじゃねぇ」というのは戦略的に正しい。

トヨタ自動車もチップ製造においてTSMCに依存しているわけだし、仮に中国が台湾に侵攻してTSMCが中国共産党の管理下に置かれた場合は、日本はおろかアメリカへの半導体供給がストップして 経済活動が機能不全になる恐れが出る。今ですら減産しているというのに。

いわゆる半導体を人質にしての経済制裁である。 自動車工場は たちまち経営危機に立たされて 中国の言い分に従うより他に無くなる。

そういうわけでアメリカ、欧州は南シナ海に艦隊を派遣してまで、台湾を中国から守ろうとしているのだと、ただ 中国はそれでも台湾にちょっかいを出し続ける。

中国も台湾の重要性がよく分かっているのである。今後も衝突しますよ。

広がる中国への警戒 南シナ海でアメリカと対立(キーワードで振り返る1週間)

アメリカ「本土に生産拠点が必要だ」

仮に 台湾付近で軍事衝突が起きた場合、台湾のTSMC工場は操業を停止し チップの供給がストップする可能性があります。

その為 アメリカとしても国内にファウンドリや後工程の拠点を作って自力で供給する体制を整えたいということで、アリゾナにファウンドリや後工程を誘致しようとしているわけです。

しかしアメリカがいくら巨額の補助金を出して TSMCに最先端の工場を作れと言っても、台湾としては微細加工の最新技術をアメリカに渡すわけには行かない。

そんなわけでアリゾナの工場は5ナノチップ、台湾では3ナノ、2ナノチップと最先端の技術は台湾にしか無いようにしてあります。アリゾナの工場群が操業するのは2024年からなので 2024年あたりからPS5を高額で売りさばいている転売屋は死ぬでしょう。

しかし そうなってくると 依然 世界は トップ技術を持っている台湾を狙うのである。地政学という事もあって、この本はそういった話が続いている。

「性能の差が戦力の差」

本書で特に大事なのは半導体の軍事転用の部分である。半導体の性能の違いで戦争の勝敗は決まってしまう

2020年9月に起こったアゼルバイジャンVSアルメリアの紛争ではそれが実証される結果になりました。 イスラエル&トルコが支援したアゼルバイジャンが勝利したのである。

高性能ドローン バイラクタルTB2で有名になったトルコは国境を超えた地点から ドローンを飛ばしアルメニアの軍事施設を把握。山岳地帯をピンポイントで爆撃し 総崩れに追い込んだ。

アルメニアの裏にはロシアがついていたが ドローンはポンコツで飛ぶことすらできなかったという。

アルメニアとアゼルバイジャンの係争地で両軍戦闘(2020年9月28日)

また今回のロシアによるウクライナ侵略戦争では、ウクライナ軍は西側の最新兵器の提供を受けている。その中には 自動で戦車を補足し 高所から急降下して爆発する誘導ミサイル ジャベリン(米)や イギリス軍が開発したNLAWと呼ばれる次世代型の誘導ミサイルがある。

NLAWの場合 発射した弾頭が自動運転で敵戦車に接近、体当たりをして戦車を爆破。もしくは装甲の薄い 敵戦車の頭上で爆発して 戦車内の弾薬ごと吹き飛ばして殺傷する。

それと半導体がどう関わるのか?
NLAWミサイルは秒速40mで飛ぶ。弾頭は着弾まで必要な補正を行いながら、高速で目標に向かう。高速の飛翔体を自律飛行させるためにチップが載せられている。ポンコツチップでは演算が追いつかないのである。極超音速ミサイルともなれば1秒間1.5キロ以上で飛行する。

早い話 半導体の性能が上がれば、攻撃するにしても守るにしても よりロングレンジで素早く、正確な射撃が可能になるわけである。

逆に言えばロシアのように ポンコツ半導体しか作れない場合は、無誘導で 無差別に民間人を攻撃する 恥さらしな軍事作戦しか出来ないわけである。当たるか当たらないかは兵士の腕次第である。

幼女戦記(1) (角川コミックス・エース)

「では最先端チップの工場が中共の手に渡ったらどうなると思うかね?」

軍事だけの話ではない

本書のタイトルには 2030とあるが、10年後の世界がどうなるかというのも大胆に予想している。ガソリン車からEV化、そして自動運転への流れになるだろうという予想である。

半導体の性能向上の恩恵は 生活面にも及んでくる。自立型ロボット、AIアシスタント、自律走行車両、ドローンによる宅配。

紹介はできなかったが 中国や欧州の動きも紹介されている。中国で言えば 特に経済特区である深セン、特にバイドゥ・アリババ・テンセントの存在は侮れない。

先行きが不安な人は 読んで不安を解消しておこう。向こう10年を見通す意味でも 読んで損はない。

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