ネットフリックスでイノセンスを見る。
押井さんによると、イノセンスは攻殻機動隊が アメリカや欧州でウケたので、続編を作ってくれと頼まれて、そして大量の資金が入ってきたので、それを思う存分に使って(滑った)映画らしい。
これほど豪華で陰気な作品もない。
違いの分かるオタク向けSF。これが好きな人は よっぽど頭がいい。
この作品のテーマを一言で言ってしまうと
人間はプログラムのような物質なのか それとも 意思を持つ生命体なのかという事。
デカルトが 自分は本当にこの世に存在しているのかと悩んだ挙げ句…
「我思う。ゆえに我あり」 なんて言ったわけなんだけれども、少佐にしろバトーにしろ似たようなところで苦悩している。
脳だけは人間 バトー君の悩み
バトーは全身義体で脳みそだけが オリジナルのサイボーグ。脳以外は人形みたいな存在。だけれどバトーは自分を普通の人間だと思っている。身体部分はロボットだけれど筋トレしたりする。
草薙素子っていうのはバトーに似ている。事故で自分の脳以外は全身義体になった。バトーはそこらへんにシンパシーを感じて恋をしているのかもしれない。
草薙素子の体はもうなくなっているので イノセンスは2ndGIGよりも後の話。
素子は人工衛星に自分の情報データをアップロードしたので、特定の肉体を持たず いわばデータだけの存在になっている。魂(ゴースト)だけの存在。
少佐が地上に降りる時は どこかのロボットに 自分のゴーストをアップロードして動かしている。
そんで バトーや素子の不安は 「自分は誰かが作った人工物なんじゃないか、自分の記憶すら怪しい」と疑っているところにある。
バトーは「そんなわけあるか 俺は俺だ」と思っているけど 素子は「そうともいいきれないわね」なんて思っている。結局決着はつかない。
イノセンスのあらすじ なぜバトーは怒ったのか
中華系の暴力団(紅じん会)が少女を誘拐して、その少女の魂をダビングして ロクス・ソルス社製のロボットに移植。
そして そのロボットをセクサロイドとして闇で高値で売っていた。
紅じん会と ロクス・ソルス社は そのセクサロイドで金儲けしていたが、そのセクサロイドが持ち主を殺害するようになった。
この原因はロボットの人格を作っていた宿主の少女で、少女は紅じん会に監禁されて、自分のゴーストをロボットにダビング(コピー)させられていた。
そこから救出してほしくてロボットに わざと問題をおこさせていたわけです。
ゴーストダビングを繰り返すとその脳自体がやられていき、最終的には植物人間状態になってしまう。そのSOSだった。
当然バトーは救援に向かうのだけれども、 バトーはセクサロイドにゴーストが宿った時点で それはもう人間と変わらないと思っている。
Aをダビングしても、それはAとは違う経験をするからBという別の命だとする考え。
だから少女を救出した後で、 セクサロイドがほぼ全滅したことが許せなくて、お前が助かるために何人が犠牲になったと思っているんだと言って怒りをぶちまけるわけです
つまりバトーは自爆していった少女だって 個別に意識はあったのだろう、なんでお前が助かるために死ななきゃならなかったんだ、というやり場のない怒りをぶちまけたわけです。
バトーは人形にも魂があるのだと考えている派。だからロボットに素子の意思が宿っただけでも それは生命体だと思ってしまう。だからベストをかけたりするわけです。
一方の素子は、ロボットに自分の一部を落としても、ただの個体くらいにしか思っていない。だからロボットが素っ裸でも気にしない。
もはや自分のことをどう思っているのかさえ あんまし気にしてはいない様子。とはいえ、バトーのことは気遣っているので少佐としての意識はある(ように見える)
結局 自分が仮想空間の中にいる一人のキャラクターではない。この世に存在しています。なんて証明されたのなら 最初から物語にはならない。
このまま有耶無耶なままにして終わっているので物語になっている。
「私は人形になりたくなかったんだもの」なんていいますけど、これも深くてよく考えると「自分が果たして人形ではないといえるだろうか」なんて問いが出てくるわけです
そうなると 人形と人間の境目はどこから?みたいな話になっていきます。
そんな感じで一部をモヤモヤさせて終わるのがキモです。
別に傑作というわけでもないけど 立派に物語になっているなーなんて思った次第です。