ハガキ職人がどんな努力してるのかが分かる本 ツチヤタカユキ 『笑いのカイブツ』レビュー

やはり人を笑わせるのは大変。

昨日まではお笑い界のホープみたいな存在でも、車をぶつけて逃げたりしただけで人気はなくなりますし、ちょっとギャグの賞味期限が切れただけで『ゲッツ!』といってもチンパンジーしか笑わなくなってしまいます。

このように何が面白いのかというのは とても変わりやすいので、毎回のように笑いを取るのはほんの一握りの人だけだったりします。

そして、それは芸人のみならず、番組にハガキを送る 通称ハガキ職人でもそうらしいのです。

むしろ人気や知名度がない分、ハガキ職人の方が視聴者にシビアに採点されます。常に「お前誰だよ」というアウェー状態で笑わせないと行けない分、お笑い芸人よりも頭を働かせないといけないのです。

笑いのカイブツ

この本はそんなハガキ職人の苦悩を綴った本。最初 この「笑いのカイブツ」を書店で見た時にはお笑い怪獣”さんまさん”の事でもまとめてあるのかなと思いましたが、読むと全く違っていました。


笑いに生きるメール職人の日記

作者のツチヤタカユキさんは その昔 NHKの『ケータイ大喜利』という番組でハガキ職人をやっていた人です。

http://www.nhk.or.jp/o-giri/

「ケータイ大喜利」は視聴者からお題に合わせたネタメールを募集して、評価が高ければ投稿者のランクが上っていくシステムで、上位に上がるには採点者から満点を取らねばならず、なかなか上がらないようになっています。

ツチヤさんはそんな中で最上位まで登りつめたレジェンドの一人です。この本は彼がレジェンドとして有名になる前から 今現在に続くエッセイになっているので、今からハガキ職人を目指す方には参考になる本です。


ネタ作りのコツ

見所は彼がケータイ大喜利のネタ投稿で採用されるために、どのようにのし上がったか、そのコツが書いてあるところです。

ネタが採用されるための条件である分析、それから情熱が半端ないです。

分析の手順。

・過去に番組で紹介されたネタを全部ノートに書く
・採用されたネタの規則性を探す
  センテンスが短い
  固有名詞を出さないなど4つほどの規則を見つける。
・書き出したネタを分類し 13パターンほどに分ける。
・それぞれのパターンに合わせたネタをフルスピードで大量生産していく
・面白いネタを厳選して投稿する。

お題〈芝刈り機のセールスマンが言ったとんでもない一言とは?〉
「私も元々は、この芝刈り機でした」

 

お題「 男湯 と 女湯 を へだてる 壁」 を 英語 に 訳せ
「ファイナル ファンタジー」

お題「新発売されたものすごい殺虫剤。 その商品名とは?」

….

と、このようにネタが採用されるために彼がどんな努力をしてきたのかと言うのを教えてくれます。ネタもいくつか載っているから面白いボケを考えたい人の役に立ちます。

一般の人は面白いネタが1つ2つだと思い浮かんで満足するけれど、この人はネタを1日に1000や2000も考えるそうです。当然1日中ボケ続ける事になりますが そんな集中力と熱意がすごいです。あと なんだかんだ反対はあったそうだけれど それを許した家族の愛も深いと思う。

ちなみに どうやったら人と違う発想ができるのかというのを理論的に知りたい場合はアメリカの教授が ORIGINALSという書籍にまとめています。

ツチヤさんのようにアイデアを大量生産するというのは 王道ど真ん中だったりします。独学でたどり着いているのが信じられませんが、天才が辿った道と良く似ています。

<注意>
ちなみに このような正解や終わりもない思考をずっとやりつづけると鬱になりやすいそうです。良い子はやりすぎるとだめらしいので ちゃんと休憩をはさみましょう。

しかし彼にとってはこれがお笑いに狂うという大事な作業だったようで、またここまでやっている事から、お笑いに関っている人達がどんな努力をしているのかが少し見えてきます。

なにか文章を読み続けていくと「面白いものを生み出せないなら自分は死ななければならない」といわんばかりの焦りを感じます、この狂気というか信念の硬さが魔界のように見えてゾッとします。

こんな感じで後半はしんどいのでサラッと流す

彼は19歳から8年間くらい、このようにずっとお笑いやネタの事に集中しすぎて、就職も長続きせずほとんど孤独の中にいたようです。ここら辺の独白が読んでいて痛々しいものの 若さも感じて少し すがすがしい気持ちになります。

その後もこの孤独期間が長すぎたせいで、社会に入っても周りと衝突を繰り返す様子がリアルに綴られています。まるでドラマを見ているような感じ。いえ、いつかドラマ化する可能性もありそうです。

裏方から見たお笑いの姿が分かる

最終章は闇金ウシジマくんみたいな感じの暗さですが、お笑いが持つ華やかな一面と、その後ろにある狂気みたいなものが伝わってきます。

ピース又吉「火花」に登場する先輩芸人さんと少しダブる。この世界の第一線で活躍することの凄まじさや痛さが感じられる一冊です。

深く読んでいくと気落ちしてしまいそうになるので 気楽に読むのがいいと思います。芸人さんが好きな方は、ネタとかコントってこんなふうに考えるんだな~というヒントが得られるし、お笑いの世界に興味がある方は心に残る一冊になると思います。

トランクドラゴンの鈴木さんも自伝のような本を出していますが、こちらは狙って読者を笑わせに来ている所がさすがにプロです。スキがありません。またこれは違った視点で芸を垣間見れて面白いです。

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